読後雑感~「大熊町学校再生への挑戦―原発事故・全町避難 学び合う教育がつなぐ人と知域」

全町避難の町から教育の本質を訴える書。
3月の震災からわずか2週間後の3月27日、学校再開を決め、全町避難のため場所の選定から行い、4月1日に教職員の着任、4月16日幼稚園も含めた合同入学式、5月給食開始、6月完全給食と、自らも避難被災しながら、そのスピード感と推進力に頭が下がりました。
避難生活で不安をつのらせる子どもたちが、学校で友達と会いつながりを実感することが大事だという強い思いによるものだと思いました。
他市の教育委員会を説得しながら学校再開を実現するためには、日ごろからの広い知見と表面的ではない人間関係の構築が必要なのだと思いました。
大熊の子は大熊の子で育てる。しかも間借りでななくのびのびとできる場所で育てたいという妥協のない確固たる教育観を持ち、不易と流行を考えながら、それを実現するためのリーダーシップの発揮は教育界以外の世界でも必要なものだと感じました。
復興のプロセスも、復旧ではなく未来への復興を強く打ち出しておられ、SSWやSC、校長、教頭、学校図書館、教育委員会、地域をことごとく巻き込み机上の空論ではない現場としての「チーム学校」の萌芽を本書に見つけることができました。教育長の強い推進力の中で新しい日本の教育というものを見出し、日本中の学校の希望となることでしょう。
震災直後、岩手県沿岸の被災状況を見た国立教育政策研究所の教育心理学者が、このがれきの山からひとまず先生方を引き離してリフレッシュさせたいという思いのみで実施した教員支援プロジェクトに参加しました。寄付をつのり、岩手県沿岸部で特に被災状況の悪い100人の学校の先生方を東京にお招きしました。私は、その際のアクティビティのひとつとして先生方を東京の小学校にお連れしました。1年生から6年生まで合唱やクイズ、ダンスなどで歓待する子供たちを見て、岩手県の先生がまず言ったのは「この姿を自分の学校の子供たちに見せたい。元気な子供たちを見たら、自分の受け持つ子供に早く会いたくなった」ということでした。
本書を読み、この2011年の活動を思い出しながら、いついかなるときも子供のことを考え子供の笑顔や学びを大事にする学校の先生方をこれからも応援していきたいと思いました。